伊坂幸太郎といえば、現代のエンターテイメント小説界を代表する人気作家。
しかし、一口に「エンターテイメント」と言っても、作品によって読み味がまったく違うのが伊坂作品の特徴です。
今回は、そんなバラエティー豊かな伊坂作品を4つのタイプに分けて紹介してみたいと思います。
この記事の目次
タイプ① 王道の「伊坂ワールド」系
作品例:『ラッシュライフ』、『オー!ファーザー』、『首折り男のための協奏曲』、『キャプテン・サンダーボルト』など
魅力的なキャラクター、お洒落な会話、散りばめられた伏線とその鮮やかで気持ちのいい回収……。ひたすら楽しくて面白い、100%のエンターテイメント。
一般的に「伊坂ワールド」と呼ばれるのは、このタイプの作品が多いです。
幅広い層に人気のある『陽気なギャング』シリーズや、本屋大賞第3位に輝いた『AX』などの殺し屋シリーズも、このタイプに分類されます。
タイプ② エンタメの中にも伝えたいなにかがある「社会派」系
作品例:『オーデュボンの祈り』、『重力ピエロ』、『アヒルと鴨のコインロッカー』、『モダンタイムス』、『火星に住むつもりかい?』など
タイプ①と作品の構成は同じですが、そこに主張や教訓が色濃く出ていたり、切なさや涙を誘ったりする要素があるのがこのタイプの作品。
たとえば、デビュー作の『オーデュボンの祈り』は動物の大量虐殺とそれによる絶滅危惧が、初期の代表作『重力ピエロ』は性犯罪や家族が、文庫最新作『火星に住むつもりかい?』は現代の監視社会や国家権力の闇が、それぞれ全体を貫くテーマになっています。
『チルドレン』や『サブマリン』、『週末のフール』といった人気の高い短編もこのタイプに分類されます。
タイプ③ ストーリーや登場人物たちの成長を楽しむ「青春」系
作品例:『砂漠』、『ゴールデンスランバー』、『バイバイ、ブラックバード』、『アイネクライネナハトムジーク』、『PK』など。
仕掛けや伏線といった構造の面白さではなく、ストーリーや登場人物たちの成長がこのタイプの作品の肝。
物語は時系列通りに進み、わりと普通の人たちが出てくることが多い気がします。言うなれば「素敵ないい話」。
ありえなさそうだけどありえそうな「ちょっとした奇跡」が起こるのも特徴。
タイプ④ とにかく不思議な世界観の「ファンタジー系」
作品例:『魔王』、『あるキング』、『SOSの猿』、『夜の国のクーパー』、『ジャイロスコープ』など
数年に一度、こちらが気を抜いた頃に刊行され、かなりの伊坂ファンさえもざわつかせる変化球。
不思議な世界の不思議な人たちの身に起こる不思議な出来事を、ただ不思議がるのが、このタイプの作品の楽しみ方。なにも考えず、身を委ねるべし。
雰囲気としては「世にも奇妙な物語」に似ているかもしれません。
初めての伊坂作品には「タイプ①」がおすすめ!
ここまで、伊坂幸太郎の作品を
- 王道の「伊坂ワールド」系
- エンタメの中にも伝えたいなにかがある「社会派」系
- ストーリーや登場人物たちの成長を楽しむ「青春」系
- とにかく不思議な世界観の「ファンタジー」系
の4つのタイプに分類してきました。
あくまでも私個人の基準によるものですが、大きく外れてはいないのではないでしょうか。
初めて伊坂幸太郎を読むあなたには、「タイプ①」の作品をおすすめします。伊坂幸太郎の伊坂幸太郎たるゆえんが詰め込まれた「タイプ①」の作品は、入門編にはうってつけ。
その中でも私が特におすすめしたいのは、『オー!ファーザー』。先述した要素(魅力的なキャラクター、お洒落な会話、散りばめられた伏線とその鮮やかで気持ちのいい回収)を網羅しつつも、物語が時系列通りに進んでいくので、途中で筋を見失う心配がありません。伊坂幸太郎を知るための教科書と言っても過言ではありません。
『オー!ファーザー』、ぜひ読んでみてください。
まとめ
いろいろ語ってきましたが、最後にこれだけ言わせてください。
伊坂幸太郎って、結局、どれから読んでも全部面白いんですよ!
入口が違うだけで、最後に辿り着くところはみんな同じ。逆に、これだけいろいろなタイプの作品があるからこそ、どんな人でも自分が好きな作品に出会えるのかもしれません。みなさんも、ぜひ、いろいろなタイプの伊坂作品を読んで、お気に入りの1冊を見つけて下さい。
そして、できれば、私のおすすめ『オー!ファーザー』も読んでくれると嬉しいなあ、と思います。