歌野晶午のおすすめ小説6選〜騙される快楽〜

歌野晶午、本格ミステリ界では唯一無二の存在だろう。

予想を裏切る展開、意外な着地点、ラストの衝撃、歌野の作品にはミステリの楽しさがある。基本を押さえながらも独特の視点で書かれた作品に読者は常に翻弄されている。騙されることに気持ちよさすら覚える。

彼の著作は三十冊を超えるが、今回はその中から六冊を紹介。

騙される快楽に溺れよう。

ターニングポイントというべき作品 / 『ROMMY 越境者の夢』(講談社文庫)

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人気歌手ROMMYがレコーディングスタジオで死んだ。不自然な死体の状況。犯人はその場に居合わせた音楽関係者のはずなのだが……死の真相と共に徐々に見えてくるROMMYの生き方とは。

随所に挟まれるROMMYの生涯年表や写真、ラフ画などの効果も高く、読み終えるとミステリ小説という創作でありながらROMMYという人物が確かにいた証のようなものに思えるから不思議である。

1988年に『長い家の殺人』でデビューしその後もコンスタントに作品を刊行していた歌野だが、1992年に『さらわれたい女』を刊行したのち1995年のこの作品を発表するまで少し間があく。読者としては待ちわびた新刊の報にまず沸いただろうが、ROMMYを読了したとき別の意味でも喜んだだろう。それまでも面白かった歌野晶午の作品がこれ以降、輪をかけて面白くなったからだ。間違いなく歌野晶午の転機となった作品だろう。

言わずと知れた最高傑作 / 『葉桜の季節に君を想うということ』(文春文庫)

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歌野晶午の代表作といえば2003年に発表された『葉桜の季節に君を想うということ』だ。発表翌年のミステリランキングでは首位に名を連ね、同作で第57回日本推理作家協会賞、第4回本格ミステリ大賞も受賞している。

ハードボイルド気取りの素人探偵が女性に良いところを見せようと奮闘する物語……なんて書くと実に陳腐な話に思えてしまうだろうが、それでいい。とにかく詳しいことは何も知らずに読み切ってほしい傑作。人気作品ゆえネットの海にはあらゆるところにネタバレが転がっているので未読の方はお気をつけて。

私自身も読了後、あまりの衝撃にページを戻り、一頁一行目から既に作者の罠にかかっていたことに気付き愕然としたことを覚えている。

謎解きのための殺人 / 『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(講談社文庫)

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インターネット上に集う奇妙なハンドルネームの五人。画面の中では一人が問題を出し残りの四人が解答するという推理ゲームを行っている。問題は全て殺人に関するもの。ただしその問題となる殺人は実際に出題者が実行済み。

2.0、マニアックスと続く密室殺人ゲームシリーズの一冊目。

“ゲームの問題としての殺人”というこのとんでもない設定にまず痺れる、次から次へと出題される“問題”ははあまりの無慈悲さに眉を顰めたくなるようなものもあるが、いつしか読者も登場人物同様、思う存分謎解きが出来るこの遊びに夢中になってしまう。どれも常識外れのトリッキーさ、それでいてロジカルな真相が実に面白い。

そして作者らしい仕掛けと収束。最後まで余すところなく楽しませてくれる。

歌野晶午ではこれが一番好き、という人も多いのも頷ける作品。私もこの作品が大好きだ。

恋愛小説?いえ本格ミステリ! / 『ずっとあなたが好きでした』(文春文庫)

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中学生の大和がバイト先で知り合った三千穂への淡い想いが綴られる表題作、続く「黄泉時より」は人生も半ばを過ぎ死を目前にした男が出会った女性への恋、次は北海道を舞台に小学生の一途な気持ちが書かれた「遠い初恋」、と舞台も年齢も様々な13の“恋愛小説”が入った短編集。

どの物語も恋愛を軸にしながらミステリ仕掛けであったりコメディ色が強かったりと多種多様、もちろんそれぞれが独立した話なのでどれか一編だけ抜き出して読んでも楽しめる。実際「黄泉時より」「散る花、咲く花」などはミステリアンソロジーにそれぞれ収録されていることでもそれがわかる。

しかし、歌野晶午である。それだけで終わるはずはない。

13の物語を読み終えた時、何かに気付き、驚くことになるだろう。そしてまた読み返すことになる。作者の企みはすべてに張り巡らされているのだ。

江戸川乱歩×歌野晶午 / Dの殺人事件、まことに恐ろしきは(角川文庫)

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『D坂の殺人事件』などの江戸川乱歩の有名作品をベースに、作者らしい捻りと毒をふんだんに入れ現代風にアレンジした短編集。他にも『人間椅子』『お勢登場』など乱歩の有名作品が使われている。元作品を読んでいるにこしたことはないが、「歌野晶午の小説」としての完成度が非常に高いので、もし元作品を読んでいなくても存分に楽しめる。

表題作の「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」は死の真相といい登場人物のえげつなさといい後味の悪さが一級品。死の真相も乱歩を想起させるものではあるのだが、それすら歌野らしい真相と思えてしまうあたり既に本家を凌駕しているのかもしれない。『押絵と旅する男』が下敷きとなっている「スマホと旅する男」は幻想的な雰囲気はそのままに実に上手に現代のハイテク機器を取り込んでいて見事。幕切れも実に鮮やか。他、どの作品も設定と時代を巧みに使っていて素晴らしい出来映えだ。

これは悪夢か現実か / 間宵の母(双葉社)

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物語は間宵紗江子を中心とし、それぞれ語り手、年代の異なる四章「間宵の父」「間宵の母」「間宵の娘」「間宵の宿り」から成っている。小学校に通う紗江子の格好良く素敵なお父さんを同級生の視点から描いた第一章、大学生になった紗江子から見た母親の異常な描写から始まる第二章……と続いていくのだが、その全てがどこか何かずれているのだ。しかし読み手の私たちには何が起きているのかわからない。読んでいると、まるで自分ではコントロール出来ない悪夢の中をずっと進んでいるようなおかしな感覚になる。いったいどこまでが現実でどこまでが夢なのか。誰かの妄想を見ているかのような作品。

ホラー色が強いと紹介されることも多い作品だが「なぜそうなったのか」という真実はきちんと隠されている。そのあたりはさすが本格ミステリの名手だと感嘆する。

まとめ

デビューから三十年が経っても尚、常にブラッシュアップを続ける作家、歌野晶午。

本格ミステリとして良い意味での泥臭さを残しつつ、どれもこれも洗練された作品に仕上げてきている。一言で言うと“センスがいい”のだ

彼がミステリ界に現れるまでの奇跡のような流れはデビュー作ともなった『長い家の殺人』巻末の島田荘司による「薦」に詳しく書かれているのでそちらも是非読んでみてほしい。

彼が次回はどんな作品で驚かせてくれるのか、歌野晶午の新作を私は心から待ちわびている。

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AUTHORこの記事を書いた人

ミステリとチョコレートとコーヒーが好きです。密室とか見えない人とか信頼できない語り手とか囁かれると心がときめきます。