『イニシエーション・ラブ』だけじゃない! 乾くるみおすすめ小説7選

乾くるみといえば『イニシエーション・ラブ』を思い浮かべる人も多いだろう。同作は2004年に発表され2007年の文庫化をきっかけにメディア等で紹介され再注目、2015年には映画化もされ、一躍世間に乾くるみの名前が知られることになった。もちろんミステリ好きの間では乾くるみの実力などとっくに周知のことで、あの時期の普段あまり読書を趣味にしない層もこぞって『イニシエーション・ラブ』を話題にし、読んでいる姿はとても嬉しく、不思議な光景でもあった。

ひょっとして『イニシエーション・ラブ』一冊のイメージのまま、“くるみ”という可愛らしい名前の響きも相まって漠然と「恋愛ミステリの人でしょ?」と思っている人もいるかもしれない。

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とんでもない。

乾くるみはそんな枠におさまるような作家ではない。

驚くほどの引き出しを持った乾くるみの魅力をもっと知ってほしい。

Jの神話(文春文庫)

全寮制の名門女子高で続く生徒の不可解な事件。死体の異様な状況や残された遺書にあった謎の言葉など、前半は厳かなミステリらしい雰囲気で進んでいくのだが、読み進むにつれ高揚感に包まれるというのか熱に浮かされたようなというのか、とにかくもの凄く熱量の高い展開になっていくのだ。Jとは何のことなのかという謎。そしてSF、百合、エロティック、グロテスク、様々な要素が絡み合っていく様はクラクラするほどで、読み終わると唖然としながらも賞賛せざるを得ない。

1998年に第四回メフィスト賞を受賞した乾くるみデビュー作であるこの作品。思い返せばこの『Jの神話』から既にとんでもない怪作である。

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クラリネット症候群(徳間文庫)

「クラリネット症候群」「マリオネット症候群」二編の中編を収録。

表題作は子供の頃からお馴染みのあの曲どおり、ドとレとミとファとソとラとシの音が“文字通り聞こえなくなる”という意欲的な作品。暗号解読などのミステリ的要素もあるもののどちらかというとスラップスティックコメディのような趣がある。

「マリオネット症候群」はいわゆるSF的人格転移もの。人格が転移すると言っても当然一筋縄ではいかない展開で次から次へと状況は変化し、最後まで一気に読みきってしまう。ブラックユーモアが溢れているのに不思議とハッピーエンドを感じる作品。

『イニシエーション・ラブ』のような恋愛ミステリとは雰囲気ががらりと変わり「乾くるみってこんな感じの作品も書くの!?」と思える一冊。

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カラット探偵事務所の事件簿1(PHP文芸文庫)

所長であり誰に対しても丁寧な言葉遣いをする古谷と仕事人間でハードボイルド好きの調査員、井上の二人が“あなたの頭を悩ます謎をカラッと解決”してくれる謎解き専門のカラット探偵事務所。

舞台の設定上、様々な依頼人が「不可思議な謎」を持ち込むので、色んなタイプの謎解きが楽しめるという寸法だ。卵パックから中身だけが消えていたことから話が発展していく「卵消失事件」や家の敷地に射ち込まれた矢の理由を解く「三本の矢」など、この一冊だけでも六つの謎が楽しめる。提供される謎は風変りなものばかりだが、どれも誠実でフェアな謎解きが楽しめる。最後の最後にとあるお楽しみがあるのも嬉しい。

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六つの手掛かり(双葉文庫)

林四兄弟シリーズ二冊目の六編から成る短編集。シリーズものといっても主人公がそれぞれにいて独立した作品として読める。

本作の探偵役となる主人公は「太ったチャップリン」のような見た目の林家の三男、茶父。ツララが垂れるほどの寒い雪の夜に発見された死体、送り主不明のプレゼントに仕掛けられていた爆弾、ESPカードを握りしめて死んだカナダ人大学教授、等と六編全てがまず死体ありきのガチガチの犯人当てものだ。積み重なるロジックの上に成り立つ真相は何とも小気味よい。

「六つの玉」から始まり「五つのプレゼント」「四枚のカード」と続き最後は「一巻の終わり」で終わる収録作品のタイトルも気が効いているのだが、それ以上に「一巻の終わり」を読み終えた時の仕組まれたシンクロニシティにゾクっとくる。

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スリープ(ハルキ文庫)

2006年の世界でテレビの美少女人気リポーターとして活躍していた14歳の亜里沙。あるとき取材で訪ねた未来科学研究所という施設内で思わぬ出来事から亜里沙は意識を失うことになる。次に亜里沙が目覚めたときは2036年の世界、時は経っているのに14歳の変わらぬ姿のままで……というSFミステリ作品。冷凍睡眠という使い古されたモチーフでありながら、その着想と使い方、ラストが見事。ひょっとしたら近い将来に実現する世界なのかもしれないと思わせるところもあるのだが、神の領域と呼ばれる部分に人間はどこまで踏み込んでよいのか考えさせられる。

そして、この物語はある偏執的な愛の物語でもある。

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セカンド・ラブ(文春文庫)

刊行時の帯には「『イニシエーション・ラブ』の衝撃、ふたたび 究極の恋愛ミステリー第二弾!」とある2010年の作品。

主人公、正明は会社の先輩を介して知り合った春香に惹かれるようになりやがて付き合いだすのだが、あるとき春香にそっくりな女性が存在することを知り状況が一変していく。小説の大半は主人公である正明の日常、彼女との出会い、親しくなっていく過程、デートの様子、などが描かれている。もちろんそれだけで終わるわけではない。作中に姿かたちがそっくりな人物が二人出てくるとなると「さてはアレだな?」と勘繰る賢明な読者も多いだろう。しかしそんな勘繰りは不要、作者の企みはその先をいっている。終盤、“明確に文中には書かれていないあること”に気付くことになるのだが、その瞬間、恋愛小説がまるでホラー小説かのように反転するのだ。作中の何気なく交わした二人の会話すら伏線になっているので気が抜けない。

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嫉妬事件(文春文庫)

大学のミステリ研究会の部室に突如あらわれた「あるもの」を巡るミステリ。「あるもの」をいつ誰がなんのためにそこへ置いたのか。そして元の所持者はいったい誰なのか。

あまり詳細な内容には触れずにおきたいのだが、“嫉妬”とは何なのかをまずよく考えてから手に取ることをオススメする。

この本以外に「尾籠系ミステリ」などという紹介をされている例を私は他に知らないが、ただこれもまた、ゴリゴリの本格ミステリに仕上がっているのは確かなのだ。いったい乾くるみの頭の中はどうなっているのか。

そして、何が一番恐ろしいって、この作品は実際の事件をベースにしている、ということなのだ。

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おわりに

乾くるみお勧め作品7冊。あえて『イニシエーション・ラブ』以外から選んでみた。

本格ミステリ、SF、恋愛、コメディと方向は違っても、そのどれもがどこかシニカルな味わいのあるザ・乾くるみな物語が楽しめる。その多様な世界は読者を飽きさせることは決してない。

乾くるみの引き出しは本当に多いのだ。

もちろん『イニシエーション・ラブ』を未読の方は大傑作なのでぜひそれも!

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