【PR】月間130万PVの SF Webメディア「VG+(バゴプラ)」はなぜ出版事業を始めるのか?

SFに関する情報を発信するVG+(バゴプラ)は、現在月間130万PVを誇るWebメディアです。そんなバゴプラが、SF書籍レーベルの「Kaguya Books」を立ち上げ、CAMP FIRE上でクラウドファンディングを開始。書籍刊行のための支援金を募っています。

バゴプラがなぜ紙書籍の刊行を目指すのか、今後のSF界をどのように変えていきたいのか。クリエイティブ・ディレクターを務める井上彼方さんにお話を伺いました。


話し手:井上彼方
1994年生まれ。2020年、SFショートショートを対象にした第1回かぐやSFコンテストで審査員を務める。同年よりSF短編小説をオンラインで定期掲載するKaguya Planetでコーディネーターを務める。編著書に『社会・からだ・私についてフェミニズムと考える本』(2020,社会評論社)。

Kaguya Booksのクラウドファンディングページはこちら


ーーこれまでバゴプラ、Kaguya Planet※1など、基本的にはWeb上での展開が主だったと思います。そんな中、今回「Kaguya Books」として紙書籍を出すのにはどういった理由があるのでしょうか。

※1.Kaguya Planet:SF短編小説を掲載しているオンライン誌。ジェンダー不平等の解消、新人賞以外の道筋づくり、海外への挑戦というテーマに取り組んでいる。

井上彼方さん(以下、井上):これまでつながってきた書き手の方々の活動の場所を広げていきたい、読み手の方々により多様な作品を、多様な形態でお届けしたいというのが一つの理由です。Kaguya Planetでは本当にたくさんの素敵な作品を掲載できていますが、一方で書き手の活動の場所を確保していくという意味では限界も感じています。また、読者の皆様からは紙で読みたいというお声もいただいてきました。

なぜ「紙」の書籍かという点では、Kaguya PlanetというWebのSF誌があるので、Webと紙で双方向的に盛り上げていけたらいいなという思いもあります。Webで読んだ小説が面白かったらその書き手の紙の本を買ってもらうとか、逆にKaguya Booksで刊行する紙の本からかぐやSFコンテスト※2とかバゴプラのいろんな活動を知る人もいると思います。全国に書籍が流通するとか、本屋さんでそれとばったり出会う人がいるというのは、当たり前のことのようですが、実はすごいことなので。

※2.かぐやSFコンテスト:バゴプラ上で2022年、2021年に開催された短編SFコンテスト。大賞受賞作は英語・中国語に翻訳される。

ーー現実世界の方にオウンドメディアを持つというか、そういう感覚があるのでしょうか。どちらかといえば、現実のプロダクトを売るためにWebでオウンドメディアを展開する場合が多いと思うのですが。

井上:そういう側面もあると思います。Webで読める小説と紙の本は、今よりももっと多様で共に盛り上がっていく関係を作れると思いますし、その可能性を探っていきたいです。

ーーWebメディアのバゴプラでは、主に「SF」という括りで記事を更新されていて、その中には小説以外の記事も多くあります。3つのKaguya※3の取り組みの中で、媒体として「小説」にこだわるのにはどういった理由があるのでしょうか。

※3.3つのKaguya:Kaguya Planet、かぐやSFコンテスト、Kaguya Booksのことを指している。

井上:日本のSF界で必要なこととか自分たちが日本のSF界でできることは何か、ということを考えたときに、一つは短編小説の発表の場を作ることなのではないかと思っています。

海外だと、SFの小説をWebで読むカルチャーがめちゃめちゃ盛んです。WebのマガジンもセミプロZINEもたくさんあって、作家はそこで作品を発表して、読者からフィードバックをもらって経験を積み重ねてステップアップしていく、そういう機会があります。でも日本にはほとんどない。そこは日本のSF界で自分たちがやれることだと思いました。

かぐやSFコンテストもKaguya Planetも、掌編を書いてたくさんの人に読んでもらってフィードバックをもらう機会を作りたいという点では共通しています。ウェブメディアとして始まったバゴプラの強みを活かせているとも思います。

あとは、シンプルに私が小説が好き、という理由もあります笑

ただ、別に小説だけをやりたいと思っているわけではないです。Kaguya PlanetやKaguya Booksで出た小説が映像化されたりとか、オーディオブック化したりとか、絵本にしたりとか、そういう風に広がっていったらいいなと思っています。他のところに展開できたらいいなという野望を持って、まずは自分たちがやれる範囲でやろうということですね。

ーーKaguya Planetで翻訳などもされていますが、Kaguya Booksでもそういう予定はあるのでしょうか。

井上:今のところ具体的な刊行計画があるわけではないですが、やりたいと思っています。クラウドファンディングでも、それ以外のところでも「翻訳作品も刊行してほしい」というコメントをいただいております。やりたいですね。

ーークラウドファンディングのリターンとして用意されているオンライン講座を拝見すると、運営の齊藤さんはアメコミに、井上さんはフェミニズムやジェンダーにご関心があるのかなと思います。そういったご自身の興味関心とSFと結びつくようなところがあればお伺いしたいです。

井上:最初からSFとジェンダーに関する興味が重なっていたわけではないです。小説やファンタジーは小さい頃から好きで、ジェンダー論やフェミニズムは大学生の時に勉強し始めました。

ジェンダーとかフェミニズムについて理論的なことを勉強するのももちろん大事なんですけど、自分の現場においてそれをどう実践するかもすごく大切だと思っています。自分の仕事だったり身の回りだったりでどう実践するのか。SFにかかわる仕事を始めて、自分にとっての現場がSFになって、じゃあそこで自分にできることって何かなと考えて、ジェンダーSF特集を組みました。

あと、かぐやSFコンテストの審査員をするときやKaguya Planetの編集で筆者の方とやり取りをさせていただくときも、いろんなセクシュアリティ、いろんなジェンダーの人が安心して読める作品になっているか、という視点は大切にしています。

Kaguya Booksのクラウドファンディングでは、日々の生活やクリエイティブな活動にも使える知識を伝えるオンライン講座がリターンとして用意されています。

ーーKaguya Planetの開始からまだ1年強で、そこから今回のKaguya Booksへという動きは、とても順調に話が進んでいるように見えました。Kaguya Planetを始められた時から、紙をやりたいという話はあったのでしょうか。

井上:全くなかったです笑 経営面でKaguya Planetが順調かというと全然そんなことはなくて、バゴプラの記事の広告収入をKaguya Planetに注ぎ込んでいます。Kaguya Planet単体で採算がとれているわけではないんですよね。ただ、同じことだけを続けていても安定するわけじゃないなとも思っています。攻撃は最大の防御じゃないですけど、いろんな事業を展開する中で、Kaguya Planetのこともより広く知ってもらおうと考えています。

Kaguya Planetの開始から1年という早さでKaguya Booksの立ち上げをすることができたのは、いろんなところとコラボさせてもらいながら企画を進めているというのも大きいです。今回でいえば、出版流通のことは業務提携している社会評論社さんに一任していますし、組版とデザインのことは犬と街灯の谷脇クリタさんへお願いしています。これらのコラボ抜きに1年でのレーベル立ち上げはできませんでした。自分たちは小さくても他の方々とコラボをして補い合いながら事業を進めることで、フットワーク軽く色んな企画を実現できるという部分もあると思うんです。小さいなりの強みというか。

ーー今年は、かぐやSFコンテストは開催の予定はありますか?

井上:今年はまずKaguya Booksを出すことに専念しようと思っています。コンテストって1年に1回やるところが多いですけど、別にそれって自明ではないよねというか。オリンピックは4年に1回だし、2〜3年に1回でも別に良いよねっていう。

2020年の第一回かぐやSFコンテストでは、4名の受賞者と7名の最終候補者の方とつながりができました。そのうちの何名かの方にはKaguya Planetでも新作を書いていただいております。ただ、新作の執筆を依頼したいなと思いながらも叶えられないまま、第二回かぐやSFコンテストの開催に突入していった方もいます。私たちとしてもそれは残念ですし、ちょっと無責任な気もします。毎年やることに変にこだわって雑になってしまうくらいなら、3回目は間を置いて開催しよう、そして受賞者と最終候補者による『かぐやSFアンソロジー(仮)』の刊行に全力を注ごうと思いました。

ーー今回、アンソロジーなどの刊行がある中で、蜂本みささんの作品が長編第一作として刊行されますよね。蜂本さんに依頼したいと思った理由は何でしょうか。

「冬眠世代」がめっちゃ良かったからですね。それが一番大きいかな。私自身、蜂本さんの長編を読みたいっていうのがあります。編集者ってすごく役得だと思うんですよね。自分が好きな作家さんに新しい作品を書いてもらえるという、ファン的な意味ですごく役得。

ーー大阪や京都のSFアンソロジーを出されるということで、いわゆる地方的・地域的なものに関心はありますか。

井上:そうですね。これには二つの側面があると思っています。

ひとつめは、作品の中身の話。作品を書く上で、その地域のことをよく知っている人や馴染みのある人にこそ書ける視点みたいなものがあるだろうと思っています。書き手だけじゃなくて、企画を立てたり編集をする人も含めて、その地域のことを知っている方を集められたら面白いものになりそうだなと感じています。

もうひとつは、作品を取り巻く環境の話です。SF書籍を出してるレーベルってほとんど全部東京にあるんですよね。出版界をめぐる状況として、イベントの際に編集者とつながることができたりとか、関東に住んでいると何かと都合が良いというのは現実問題としてあると思うんですよ。

第二回かぐやSFコンテストの時に、書き手の方々に執筆活動についてのアンケートを取ったんですけど、関東在住の方が多かったんです。もちろん人口的に多いという事実はある上で、それにしても比率が高かったです。それは、日本では文化資本が東京に集中しているという状況が関係していると思っています。逆に、地方に住んでいることが強みになるような瞬間もあってもいいかなと。なのでこの2本のアンソロジーでは、地方でこそ出来ることをやりたいなという思いがあります。

バゴプラが大阪の企業、私が京都在住ということでまずは京都と大阪ですが、他の地方を舞台にしたSFも楽しいと思います。まだ具体的には決まっていませんが、Kaguya Planetとタイアップして、Kaguya PlanetとKaguya Booksに双方向性をもたせられるような取り組みもしていきたいです。

ーーKaguya BooksのSFアンソロジーに関しては、かぐやSFコンテストの受賞者の方や選外佳作の方を候補に募集するとのことでした。大阪と京都SFアンソロジーに関しては、どういう基準で選ばれたりするんでしょうか。

井上:大阪の方は、私ではない人に編者を依頼しようと思っています。私がいつも編集をやっていると、私の視点から見えるアンソロジーしか出せないと思うので。どなたに執筆を依頼するかとかは、その人と一緒に相談しながら作っていければと思っています。大阪SFアンソロジーの方は、2047年の大阪を舞台にしたいなと思っています。通天閣とか大阪名物にスポットを当てるのもありだと思います。

京都の方は私が編者をします。まだ本当に何も確定していることがないんですけど、書き手はプロ・アマ関わらず、私が面白いなと思っている作家さんに依頼します。単行本をすでに出している人もいるし、ずっと同人誌で活動してきましたっていう人にも書いてもらいたい人がいます。

ーー最後に、今後Kaguyaで取り組みたいことを教えてください。

井上:たとえばKaguya Planetだったらジェンダーバランスの是正とか、新人賞以外の道を作りたいとか、海外との隔たりをなくしたいとか、そういう問題意識の方が前面的に出やすいんですけど……。

でもその大前提として「SFって楽しいよ」と思っていて、SFが好きだからこそ、良くしたいという思いがある。

なので、Kaguyaでやりたいことは、より多くの人にSFの楽しさを知ってもらうことです。SFは可能性に溢れてるんだということを伝えたいです。「今・ここ」ではないものを想像することは楽しいし救いだし可能性に溢れていると思います。そのことを作品やコンテストや企画など、全ての事業を通して伝えていきたいです。


Kaguya Booksのクラウドファンディングページでは、これまでの取り組みや今後やっていきたいことについて熱い文章が綴られています。ぜひ、あわせてご覧ください。

リターンはどれも魅力的ですが、個人的におすすめなのは、最も安価に設定されている「私の小説の書き方」というエッセイが受け取れるもの。今回のプロジェクトの筆者より16名が「どのように小説を書いているのか」を綴っており、今のところ販売の予定はないとのことです。

バゴプラやKaguyaの取り組みがSF界にどのような地殻変動を起こすのか、今後も注目していきたいと思います。

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