オンライン歌会ことはじめ / 実録編

前回の記事では、はじめての歌会を楽しむための手順やポイントを概説しました。それを受けて、この記事では歌会で出てくる選評とはどういうものなのか、実際に筆者が実施したオンライン歌会の記録からご紹介します。

☆選評……歌会で述べられる歌についての批評や感想

歌会の概要

無記名で評をして作者を最後に明かす一般的な歌会でした。

【詠草】自由詠
【日時】2021年6月22日(火)20:00-22:00
【場所】オンライン(GoogleMeet、ビデオオン・オフは任意)
【司会】川瀬みちる
【参加者】大島健志、川瀬みちる、小島涼我、沙島薫(欠席)、高良真実、丹花ヨム、中本速、藤田祥、三崎鈴
【選】特選◎(2ポイント)、並選・(1ポイント)を各一首、自分の短歌以外に入れる

☆詠草……歌会で提出される自作の短歌
☆選……歌会で行われる短歌に対する投票

選評の記録

一首目

1,ねぎとろはねぎがなくてもねぎとろときいてわらっているねぎの花 (8ポイント)

藤田:語感のインパクトがある。主体はねぎの花だと思うが、そのゆるさがいい。

三崎:かわいらしい。丸くてほわんとしているのは笑っているというのがしっくりくる。そもそも「ねぎとろはねぎがなくてもねぎとろ」というのが面白くて、それでねぎの花が笑っているイメージがいい。

川瀬:ねぎの花を詠むのは珍しい。

高良:魅力については前評者が述べた通り。「ねぎとろ」「ねぎ」のリフレイン、初句と三句目に「ねぎ」がはまっている面白さがある。「青森のひとはりんごをみそ汁にいれると聞いてうそでもうれしい」という雪船えまの歌を思い出した。真偽のほどはどうでもよくて、それでも面白いという歌。ただ、「ねぎの花」がノイズにになるかな、と思う。花が笑うと書くと花が咲くという意味があり、単に「ねぎの花」が咲いているという景なのか、「ねぎの花」が本来の意味で笑っているという景なのか。花に聴覚はないと考えてしまい、ファンタジー的な読みにならず、特選には至らなかった。

丹花:ひらがなが続いて最後だけ漢字という表記が美しい。読み上げた時も気持ちよい。「花」はひらがなでもよいだろうが、この漢字は簡単な漢字なのでひらがなに馴染んでいてよいと思う。

大島:ねぎとろにとって不必要とされている側が笑っている場合なのかと思って取れなかった。

小島:わらっているというのが、ひらがなに開いたことで「嗤う」「哂う」なのかなど分かれるので、読みブレが生じる。

☆主体……短歌のなかに登場する「わたし」(「作中主体」とも呼ばれる)
☆初句……短歌の57577のうち、最初の5音
☆三句……短歌の57577のうち、3つ目の5音
☆取る……歌会でその歌に投票すること

二首目

2,「We shall overcome(ルビ:いつの日かうち克つ)」といふ唄みぢかく斜陽の影の長きを見詰む(0ポイント)

中本:圧力が掛かっている中で強い意志で理想を実現しようとしているが、まだ実現していない、という歌だと思った。歌の短さと影の長さが対比になっている。結構好きな歌だったが、少し
抽象的だと思った。斜陽という言葉が色んなイメージを引き連れてくる。何か具体的なものがあれば惹かれたと思う。

三崎:「We shall overcome」は公民権運動の歌の有名なフレーズ。ブラック系のデモの話とも思えないが、何かしらのデモに参加している人の歌だと思った。

高良:「We Shall Overcome」は有名な歌で、大学の授業でも習った。実際に短い歌だった。大文字小文字の使い分けから、歌のフレーズなのか曲名なのかわからず、不正確さが気になった。ルビの効果に関しても疑問がある。

三首目

3,銃をお前の情けない眉間に置く地獄の底で踊り狂え (0ポイント)

小島:一貫して強い言葉で構成されていることはよい。区切りをどこに持っていくかでイメージが変わってくる。意味で区切ると、結句字足らずになってしまっているのがバランスが悪く、不安定さが生まれる。「踊り狂えよ」でもよかったのではないか。

高良:合計すると31音になることは確認した。初句七音を知っていると、逆に途中で読み方に詰まったりする。この韻律の崩し方は乗れないと思った。「置く」という単語の選び方も迷う。「向ける」などもっと適切な描写はある。結句字足らずは不安定な感じになり、怖いフレーズが活かせていない。「踊り狂え」は少し楽しそうで、迫力出したいのか分からず不思議な歌。

丹花:下句が「地獄で踊れ」7音にできるので、あと7音足して下句を構成すればよかったのではないか。

☆結句……短歌の57577のうち、最後の7音
☆字足らず……短歌の57577という定型に対して、音数が足りないこと
☆初句七音……57577ではなく77577などのように、初句が7音で構成されていること
☆韻律……短歌のリズム
☆下句……短歌の57577のうち、後半の77の部分

四首目

4,君の香を購ひたれどわが肌は君の香りを作りいだせず (4ポイント)

小島:展開のよさには目を見張るものがある。「君の香」は君がつけている香水の比喩。君の香水を自分が使ってもその香りにはならない、なぜなら君自体に香りがあるからだ、というとても美しい歌だと思った。

中本:ちょっと悩んで入れた。君がつけている香水を「君の香」というところまで圧縮してもよいのか疑問。言ってることは普通のことだが、この歌のよいところは君の香りは君の肌の香りと合わさってできているということを遠くから伝えているところ。

川瀬:遠くから伝わってくるのが香りのよう。内容と文体が合ってないような、重々しい感じがしたのが気になった。香水は男女で分かれていることが多いので、百合っぽいと思った。

高良:「いだせず」に強い違和感。可能動詞は鎌倉中期以降に発祥した使い方で、文語は平安中期を範としている。文語的には微妙。「~あたはず」を使うのではないかと思う。川瀬が言っているように、同性関係であることが示唆されると思う。君になりたいというようなメッセージもあり、「ぼくはただあなたになりたいだけなのにふたりならんで映画を見てる」という斉藤斎藤の歌を思い出した。文体は変な感じしなかった。

五首目

5,少しだけはみ出している僕の肩に降ってる雨を君は知らない (3ポイント)

大島:マイナス点としては、2句目では「ている」となっているのに、4句目では「てる」と「い」抜き言葉になっているところが気になった。それでも、補って余りあるほど好きな歌。視点の不均衡を詠んでいると思った。相合傘で君は濡れずに済んでいるが、傘を差している自分は濡れてしまっているということが、何かの比喩として描かれていると思った。主体からは自分が少し無理をしている、傷を負っていると感じているのだろうが、その中身がとてもきになった。

三崎:自分の肩がはみ出しているという後ろから見ている感じから、ズームしていくのが上手いと思った。どっちかというと、君を濡らさないためなら自分は濡らしてもいいという思い遣りや片想いのような感情を感じた。

丹花:気持ちの不均衡があって、嫌になり始めているんじゃないかなと思った。皮肉っている気持ちを歌に籠めてくれると取ったのにと思った。

中本:少しだけ違う読み。嫌に思っているんじゃなくて、自己陶酔しているんじゃないかと思った。その分君を守っているみたいな。相合傘あるあるかなと思った。

藤田:状況そのものが素敵でも、それを詠っちゃう主体がいると乗れないかも。

大島:相合傘をしているのは比喩かなと思ったので、面白いと思った。

六首目

6,朝はジム 昼は仕事で、夜はラン!あなたの愛は出かけたきりね (1ポイント)

大島:勢いがあって好きな歌。下句の言い切りの良い。初句と二句と三句の語尾の取っ散らかった感じが気になったが、内容には合っていると思った。呆れつつも相手のことを好意的に見ているのがわかる。

川瀬:散文では「!」のあとに空白を空けるルールがあるので違和感があった。

中本:統一性ないことをマイナス点のように思っていたけど、これでいい気がする。ちょっと腹を立てているのが「!」で頂点に達している、徐々に昇っていく感じがあって、これはありかなと思った。「!」のあとの空白がないことについては、昔の文法では空白ではなく読点や句点が入っていたことが由来らしいが、それは読点・句点をあまり使わない短歌においては気にしなくてもよいかもしれない。

髙良:リズムの良さは、ぶつ切れ感があって乗り切れない。定型的な読み方をすると、夫がなかなか帰ってこない中、家で待っている奥さんという光景を想像できる。その待ち人というテーマは和歌の時代から使われているが、このフレーズに落としてしまうのはもったいない。ランというのはランニングを略しているのだろうが、最初は英語の命令形かと思ったし、違和感がある。

七首目

7,「あれ、あれ」と指差す先がわからない「あれね」といえば「そう」と言われて (6ポイント)

丹花:「あれ」と言っている対象がツーカーで伝わっていない。悲しい歌で美しいと思った。伝わっているふりをすることで相手が満足してしまうのは悲しい。

髙良:この前に「あれ見て」という発話が隠れていそうで、圧縮の仕方がうまい。悲しんでいるというよりは、諦めかげんが面白いのではないか。すごく形が整った歌だと思った。

中本:指差すという行動があってということなので、「例のあれ」ではなく「あれ」と言って指を差している場面だと思った。言葉の分かりやすさや表現の上手さが状況を的確に伝えてくれるので、突っ込みを入れたくなるのが良い。

小島:他がよかったので取れなかったが、いい点が多い。短歌で使ったら漠然としていると取られることが多い「こそあど」言葉が適切に使われている。「いえば」「言う」の表記が分かれているところが気になった。

八首目

8,目を逸らす大人はいっそ消えちまえ 昏く鋭いきみの眼光 (0ポイント)

藤田:主体が大人なのだろう。「きみ」から目をそらしちゃいけないという感じが共感できる。

中本:「目を逸らす大人はいっそ消えちまえ」は台詞かと勘違いしていた。藤田の意見を聞いて、眼光のメッセージだと分かった。「昏く鋭い」というのは大袈裟だと思ったが、眼光自体が言っているメッセージだとしたらそれは分かる気もする。

髙良:リアリティの話がしたい。昏く鋭いきみの眼光といったときに迫力がどこまで出るか。ある程度はそれが伝わるが、昏く鋭いきみの眼光を見た時と同じような感覚やリアリティを読者に感じさせることはできていない。より適切な表現があるように思う。目を逸らす大人はいっそ消えちまえは、台詞だと思った。眼光のメッセージだとしたら「昏く鋭い」と重複するので、面白くない。

小島:最後まで一貫していないのではと思う。「きみ」をひらがなに開いているので、優しい雰囲気がノイズになる。「お前」という言葉などでも良かったかもしれない。

☆開く……漢字ではなくひらがなで表記すること

九首目

9,ラメ入りのシャドーは遠い地平線 星なんかにはならないでよね (2ポイント)

藤田:上句の綺麗な感じに惹かれた。閉じているか伏せられているまぶたに茶色のシャドーが乗っているのをイメージして、それが地平線と言われるとしっくりきた。下句の語り掛けをどう取るかで迷った。この呼びかけの軽さも魅力と好意的に取った。誰からも見える遠い綺麗なだけの存在にならないでということだと解釈した。

小島:「ラメ」と「星」の関係が近すぎるという評もあるかもしれないが、僕は良いと思った。下句は誰に向かっての呼びかけか分からなかった。ラメ入りのシャドウに呼びかけているのか、他の人物がいるのか。口語の語尾が優しい。
髙良:塗っているあなたに星にならないでと言っていると取った。『Sister On a Water』第4号の乾遥香の文章を引用したい。

日常を素敵っぽく詠みあげる短歌の常套手段に「ここにあるA」と「ここにないB」の取り合わせがあり、Bにはだいたい〈なにか素敵なもの〉が呼ばれます。短歌を読みすぎた読者のわたしは、その呼び出しによって演出された景が素敵であればあるほど、作者が詩のために無理な手配をしたように感じて、歌を楽しんで読めなくなる、という双方にとってざんねんな連鎖を起こしがちなので、最近そうなりそうなときは、友達の冗談や勘違いだと思って受け流しながら聞くようにしています。

(『Sister On a Water』 第4号 p.58)

すごく素敵にアイシャドウのことを呼んでいるので、冗談として受け流すことにした。後半はシャドーと地平線と星の近さがあり三段重ねで驚かなかった。よって、取らなかった。

丹花:上句の良さについて語りたい。目の際に向けてグラデーションにに塗る。瞼の線に向かってグラデーションになっていてぼやけているさまが地平線と似ている。皆さんが言っている通り、下句はよく分からなくて、でも上句はすごく良かった

大島:引っかかったのは星になるということがどういうことの比喩か分からなかった。①スターになる、②死んでしまう、という2つの解釈があり得る。

髙良:どのように下句を解釈するかは些細な問題。色んな解釈が出たが、どのように具体的に詰めていくと「迎えて読まなくてはいけなくなる」といえる。つまり、良い読みができたとしても、歌よりもその読みを見出した読者の方の良さになってしまう。読みブレが出てくる時点で表現として甘かったのではないかと思った。

☆景……短歌で詠まれている光景
☆読みブレ……ひとつの短歌に対して多様な解釈があり得ること

詠草と選歌の一覧

選:特選◎(2ポイント)、並選・(1ポイント)を各一首、自分の短歌以外に入れる

1,ねぎとろはねぎがなくてもねぎとろときいてわらっているねぎの花 /中本速
選歌:川瀬◎ 高良・ 丹花・ 藤田◎ 三崎◎

2,「We shall overcome(ルビ:いつの日かうち克つ)」といふ唄みぢかく斜陽の影の長きを見詰む /髙良真美
選歌:-

3,銃をお前の情けない眉間に置く地獄の底で踊り狂え /沙島薫
選歌: –

4,君の香を購ひたれどわが肌は君の香りを作りいだせず /三崎鈴
選歌:川瀬・ 小島◎ 中本・

5,少しだけはみ出している僕の肩に降ってる雨を君は知らない /小島涼我 
選歌:大島◎ 三崎・

6,朝はジム 昼は仕事で、夜はラン!あなたの愛は出かけたきりね /丹花ヨム 
選歌:大島・

7,「あれ、あれ」と指差す先がわからない「あれね」といえば「そう」と言われて /藤田祥
選歌:高良◎ 丹花◎ 中本◎

8,目を逸らす大人はいっそ消えちまえ 昏く鋭いきみの眼光 /大島健志
選歌:-

9,ラメ入りのシャドーは遠い地平線 星なんかにはならないでよね /川瀬みちる
選歌:小島・ 藤田・

おわりに

ここまで実際の歌会のやりとりを再現してきましたが、歌会というもののイメージがついてきたでしょうか?

個人的に、今回の歌会は選評などのやりとりがとても盛り上がって楽しかったです。参加者の皆さんの様々な意見をお聞きして、とても勉強になりましたし、もっともっと短歌をやっていきたいと思いました。

もしこの記事を読んで歌会にご興味をもったなら、ぜひ歌会に参加してみてください。これを読んでいるあなたと歌会でお会いするのを楽しみにしています。

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