女学生を描くなら / 大正時代の女学生を書くための資料8選

漫画『鬼滅の刃』の社会現象化にともない、より私たちの身近に感じるようになった大正時代。昨今、心なしか大正時代を舞台にした漫画や小説に注目が集まっているように思います。

そんな大正時代を舞台にした作品には「女学生」を取り扱ったものが多くあります。特に有名な作品は漫画『はいからさんが通る』でしょうか。女学生・紅緒を主人公に据えた本作は昭和50年に発表されて以降幾度となく実写化され、昨年も宝塚歌劇団で再演されるなど時代を超えて愛されています。

また大正時代当時に発表された作品ではありますが、吉屋信子氏の小説『花物語』は寄宿舎や女学校を舞台にした女学生たちの物語が主になっています。こちらの作品も当時から女学生に愛され、現在も多くの人々に読み継がれています。

「女学生」とは旧制の高等女学校に通っていた学生のこと。ロマンチックな抒情画や、「エス」と呼ばれる少女同士の密やかな交流を描いた少女小説など彼女たちのあいだでは可憐な少女文化が花開きました。

私もそんな少女文化に魅せられた一人です。古本市で少女雑誌や絵封筒を眺めたり、東京へ出かけたときは弥生美術館や中原淳一ショップ「それいゆ」を訪れたり、大正昭和のかわいらしい図案集が発売されたらチェックしたり。そうした女学生が愛していたであろう甘やかな文化のかけらに触れることは心を明るくすると同時に、見えない彼女たちとささやかなで大切な何かを共有しているような、特別なひとときを与えてくれました。

そんな女学生の小説をいつか書いてみたいと思いようやく手をつけたのですが、なかなかどうして筆が進みません。当時の細かなビジュアルが浮かばないのです。設定している年代にこの描写で良いのかという不安もありました。今でこそインターネットで検索すれば古写真や、オークションに出品された当時の雑貨を眺めることができますが一覧性に欠けますし厚い解説も欲しいと思い、資料を探してみました。

この記事では、そんな私が「女学生」の小説を書くにあたって参考にした資料を紹介します。「服装」「髪型・化粧」「持ち物」の三つの項目について「大正時代」に重点を置き、比較的ビジュアルが多く・解説も厚く・現在も手に入りやすいもの(絶版本もありますが多くの公共図書館に所蔵があるものを選んでいます)という条件で選びました。これから女学生や大正時代の小説を書こうと思っている方の参考になれば幸いです。

はじめの一冊

各項目について紹介する前に、最初の一冊として挙げたいのが『女學生手帖: 大正・昭和 乙女らいふ』です。そもそも女学生とはどのような存在なのかという解説にはじまり、女学生の普段着、お手紙例文集、女学生言葉解説など女学生にまつわることが広く易しく解説されています。寄宿舎の一日を追った写真や、少女雑誌に掲載されていたイラストなどビジュアルも多く添えてあり、彼女たちが送っていた生活を覗き見しているような感覚になれるでしょう。少女雑誌に掲載されていた身の上相談の抜粋からは「友人と上手く話せない」「やがてくる死が恐ろしい」など女学生が抱えていた悩みをうかがい知ることができ、小説のストーリーやキャラクターを考える際の助けになりそうです。

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服装を知る

袴のイメージがある女学生の制服ですが、和服の応用を経て細かな変遷をたどり大正後期からはセーラー服を採用する女学校が増えていきます。『近代日本学校制服図録』はその過程を、ビジュアルを交えながら詳しく解説しています。明治から昭和初期にかけての制服はもちろん、化学実験や家事実習、体操の様子など授業風景の写真も多く掲載されており、描写の役に立つのではないでしょうか。

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髪型・化粧を知る

明治期以降、西欧文化の流入にともないクリームや頬紅など新しい化粧品が生まれました。最初に挙げた『女學生手帖: 大正・昭和 乙女らいふ』に掲載されている身の上相談には「色白になりたい」「○○のクリームを使うべきか」など美容に関する相談が多く寄せられており、女学生も美容に対し関心を持っていたことがうかがえます。

『モダン化粧史 粧いの80年』は「化粧史」と題されていますが、髪型や洗髪料など髪の手入れの方法や、小物を含む服装も詳しく掲載されており、近代以降の女性の身の回りのこと全般が分かるようになっています。そのほか明治から昭和にかけての化粧品の値段の推移も年表で示されており、こちらは設定の役に立ちそうです。

手に入りやすい資料を……と言った手前申し訳ないのですが、こちらの本は現在取扱いのある書店がありません。多くの図書館には所蔵があるようなので気になる方は借りてみてください。

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上記の本の発行元であるポーラ文化研究所は、他にも近代の美容に関する書籍を多く発行しています。特に『明治・大正・昭和の化粧文化』では近代の化粧・服装・髪型が当時の社会背景を踏まえて解説されています。ビジュアルはあまり掲載されていないのですが、教科書のように浅すぎず深すぎずいい塩梅でまとめられているので近代の美容についての概説書が欲しいと思っている方に最適です。こちらは比較的新しいので手に入りやすいかと思います。

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ポーラ文化研究所
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持ち物を知る

女学生の持ち物については『女學生手帖: 大正・昭和 乙女らいふ』に掲載されていますが、特に「絵封筒」「カット図案」「パッケージ(化粧やお菓子など)」を取り上げて解説しているのが『大正・昭和 乙女のロマンチック図案』です。「図案」と題されているだけあってビジュアルが主なのですが、それぞれの項目について歴史を踏まえた丁寧な解説がなされています。申し訳ないのですがこの本ももう絶版になっています。図書館や古書店などで探してみてください。

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女学生が好んでいたロマンチックな雑貨を取り上げた先の本に対し、「食品」「薬品」など明治から昭和初期にかけての物品を幅広く紹介しているのが『浪漫図案』です。こちらもパッケージだけでなく物品そのものについての解説が厚く、描写をする際に役に立ちそうです。

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そのほか女学生が持っていたものといえば少女雑誌です。当時の女学生たちの多くが少女雑誌を読んでいたといいます。女学生たちは雑誌の投稿欄を通じ編集者と、また読者同士で交流を深めていました。

大正の人気少女雑誌のひとつに『少女の友』があります。その代表的な記事を再録し、周辺の人々のインタビューを収録したのが『少女の友 創刊100周年記念号』です。再録記事のほとんどが昭和のものなのですが、少女雑誌の雰囲気は掴めると思いますし、発行当時を偲ぶ人々のインタビューからは少女にとって雑誌がどのような存在であったかが読み取れると思います。

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最後の一冊

これまでビジュアル本を中心に挙げてきましたが、最後に新書をご紹介します。

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当時、世間の憧れでありながら揶揄の対象でもあった女学生。『女学校と女学生』はそのようなアンビバレントな性質をなぜ女学生が持つことになったのか丁寧に解き明かしています。また他の章では女学生がどんなジャンルの本を読み、何のお稽古事をしていたかなどの調査結果をもとに彼女たちが身につけていた素養についての解説がなされています。女学生へ注がれていたまなざしと女学生たちの文化、つまり外側と内側の両面から、本書は「女学生とはどのような存在だったのか」というテーマに迫っています。女学生について理解を深めることができる一冊です。

そのほか女学生について知るには、女子校の学園史を手に入れるのも良いでしょう。大正期の制服や時間割、卒業生数など細かな情報が載っていることがあります。

最後に

今回資料を手に取って感じたことは、ひとえに大正時代の女学生といってもさまざまな色があるということです。大正前期と後期ではビジュアルに細かな違いがありますし、そうした時代や地域によるグラデーションの中に個人単位の差異もあります。蕗谷虹児と高畠華宵の抒情画が共通の匂いを持ちながらも違うように、一見似通った女学生たちにもそれぞれの愛読書やお気に入りの画家や雑貨があったことでしょう。そうした女学生たち一人一人を描きだすにあたって、この記事が参考になれば幸いです。