川端康成を初めて読む人におすすめしたい小説5選

川端康成は『雪国』や『伊豆の踊子』で知られる、日本文学を代表する作家です。しかし没後50年が経とうとしている現在においては、文豪川端と言えどもその名前を聞いても、「名前は知っているけれど小説は読んだことがない」「どんな作品があるのかわからない」という方は多いと思います。

そこで今回は、川端康成を初めて読む人におすすめしたい小説を5作品を紹介します。川端文学の魅力をあますところなく解説するので、ぜひ最後まで読んでくださいね。

川端康成とは

川端康成は大正から昭和にかけて活躍した日本を代表する小説家です。近現代日本文学の頂点に立っていたと言えるでしょう。批評の神様とも呼ばれた小林秀雄と並び、文壇での影響力は絶大でした。

1921年、川端が22歳で発表した『招魂祭一景』が菊池寛らに高く評価された後、『伊豆の踊子』や『雪国』、『山の音』など文学史に残る名作を次々に発表します。

1968年にはノーベル文学賞を受賞。日本人としては3人目のノーベル賞ということで話題になりました。昨今、柳美里を始め、川上未映子や村田沙耶香、中村文則など多くの日本人作家が海外で目覚ましい活躍をみせていますが、その道を最初に切り開いたのが川端康成であったと言えますね。

川端康成の代表作品『雪国』

『雪国』は1934年より各雑誌に連作として断続的に発表され、1937年に単行本として刊行されました。作品冒頭の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった」という書き出しはあまりにも有名。この冒頭部分だけなら聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

本作品の主人公である島村は無為徒食として日々を過ごしていました。島村は懇意にしている駒子という芸者に、半年ぶりに会うため汽車に乗って温泉町へ向かいます。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

川端康成『雪国』新潮文庫 p.5

トンネルの向こう側は現実世界とは違う「彼岸」の世界。あちら側の世界と言ってもいいかもしれません。日常からかけ離れた世界に存在する雪国で、島村と駒子、もう一人のヒロインである葉子との交流し通し、彼女たちのはかない人生が美しく描かれています。特に作品の見どころは繊細な心理描写や風景描写にあるでしょう。

川端の俳句のように飛翔する文章と行間からあふれる余情を堪能できる作品です。

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戦後日本文学の最高峰『山の音』

『山の音』は1954年に刊行された長編小説であり、戦後日本文学の最高峰と評されている作品です。舞台は戦後間もない鎌倉。初老を迎えた主人公の尾形信吾は、妻の保子と長男夫婦(修一・菊子)とで暮らしています。

信吾は還暦の年に喀血し、何らかの病の疑いがありましたが病院へ行かずに日々を過ごしていました。そんな夏のある深夜に、信吾は自宅の裏にある小山から地鳴りのような山の音を聞きます。

 八月の十日前だが、虫が鳴いている。
 木の葉から木の葉へ夜露の落ちるらしい音も聞こえる。
 そうして、ふと信吾に山の音が聞えた。
 風はない。月は満月に近く明るいが、しめっぽい夜気で、小山の上を描く木々の輪郭はぼやけている。しかし風に動いていない(・・・)音がやんだ後で、信吾ははじめて恐怖におそわれた。死期を告知されたのではないかと寒けがした。

川端康成『山の音』新潮文庫 p.10

老人に迫る死の予感を山の音とからめて描く川端の文章力は見事です。他にも、戦傷兵として帰還した息子修一の豹変ぶりと、その修一の鬱屈してしまった心に振り回される義娘の菊子を通して、敗戦後の日本にあった悲しみやはかなさが美しく表現されている点も注目です。

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元祖ストーカー小説『みずうみ』

『みずうみ』は1955年に刊行された作品。本作品ほど、「美しい日本」を描いた川端文学のイメージとかけ離れた作品はないと言えます。川端の前衛性と怪しさが前面に押し出され、読むものを驚かせた本作品は、雑誌に発表した当初賛否が大きく分かれ、川端作品の中で最も物議を醸した作品です。

その理由のひとつは、主人公の異常性にあると言えるでしょう。主人公の桃井銀平は、美しい女性を見るとあとをつけてしまう性癖を持っており、現代でいうところのストーカーです。トルコ風呂(現代でいう性風俗)に入り、そこの女性に自分の足の水虫や醜い足の形について語ったり、突然「無数の釘」の幻を見たりします。

また、かつで教師であった銀平は、教え子と恋愛事件を起こして学校を追われたことがあり、女性に対する暗い情念を秘めて生きています。

そんな銀平の幻想や記憶と現実が混ざりあい、作品は難解で不気味な描写が展開していきます。

本当は不気味で怖い川端康成の一面に触れてみたい方におすすめの作品です。

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デカダンス文学の名作『眠れる美女』

『眠れる美女』は1961年に刊行された中編小説。本作品は先に紹介した『みずうみ』同様、川端作品の前衛的側面や、怪しくエロティックな性質が色濃く表現された作品です。

主人公は、老境に入っている67歳の江口由夫。彼は男性の性的機能が衰え始めているという設定です。

そんな江口はある日、友人から「秘密のくらぶ」と呼ばれている宿を紹介されます。その宿では、睡眠薬で眠らされた若い娘と一緒に眠ることができるのだという旨の話を聞き、江口は興味を持ちます。そしてある晩その宿に向かうのでした。

薬で眠らされた娘と添い寝をするという一見不気味で醜い老人を描くことで、川端は若い女性の純粋さや美しさをより際立たせようとしました。美しさをより美しく表現するためには、より醜悪なものを対比して描く必要があるといわんばかりの、川端の美に対する執念は凄まじいですね。

川端の妖艶で怪しい世界を堪能したい方におすすめの作品です。

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美しい詩集のような短編集『掌の小説』

『掌の小説』は、川端の個性や素質がすべて詰まっている作品集と言えるでしょう。というのは、この作品集には川端が20代から60代までの間に書いてきた掌編小説が収録されているからです。ちなみに「掌編」とは短編より短い作品、文字数にして300字~800字程度のものを言います。

本作品集には、10代の頃に経験した実祖父の葬儀の日を題材にした「骨拾い」や、50年以上前に死んだ女と、かつて恋人だった老人が対話をする「不死」といった幻想的な作品まで、詩的で個性ある作品が111編収録されています。本作品集を読めば、これまでに紹介してきた川端文学のすべての要素を堪能できると言えるでしょう。

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おわりに

今回は日本文学を代表する作家川端康成のおすすめの作品を紹介してきました。これらの作品の妖艶で幻想的な世界や、日本の美しい自然描写などは現在の小説で読むことはできない、川端文学ならではの魅力です。

ぜひ今回の記事をきっかけに、たくさんの作品を読んでいただけたら嬉しいです。最後までご覧いただきありがとうございました。

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