『宝石商リチャード氏の謎鑑定』の魅力と宮沢賢治の『貝の火』
私は「ミステリー」というジャンルをほとんど読まない。 昭和の奇書と呼ばれる『虚無への供物』や『ドグラ・マグラ』は大好きだし、ミステリーの名を借りた奥泉光さんの『鳥類学者のファンタジア』や『神器ー軍艦「橿原」殺人事件』の純…
私は「ミステリー」というジャンルをほとんど読まない。 昭和の奇書と呼ばれる『虚無への供物』や『ドグラ・マグラ』は大好きだし、ミステリーの名を借りた奥泉光さんの『鳥類学者のファンタジア』や『神器ー軍艦「橿原」殺人事件』の純…
小説を読んで背筋が凍り、鳥肌が立った経験はあるだろうか。ページを繰って、そこに描かれた情景を想像しながらふと腕元を見やると、細かい点状の突起がびっしり皮膚一面を覆っている。まるで体毛をむしり取られた鳥のようで、おもわずギ…
昨今、文豪を題材とした漫画やアニメが、メディアを賑わせています。これまで馴染みがなかった作家の本を、漫画やアニメ、あるいはゲームなどをきっかけに手に取る人も、きっと増えている事でしょう。また、一部の有名な文豪(漱石、芥川…
ほんとうのことというものは、ほんとうすぎるから、私はきらいだ。 (坂口安吾『恋愛論』) 『恋愛論』は作家・坂口安吾のエッセイ。 この作品は恋愛をタイトルを掲げているのに、著者は冒頭から「(恋愛というものを)私はよく知らな…
2020年4月より、石川啄木を主人公とする『啄木鳥探偵處(きつつきたんていどころ)』というアニメが放送されています。時は明治時代——歌人の石川啄木が金田一京助(啄木と同郷の先輩で、言語学者)とバディを組み、謎に挑むという…
新型コロナウィルスが猛威を振るうなか、仏ノーベル賞作家アルベール・カミュの小説『ペスト』(1947)が再評価されている。『ペスト』は、疫病の蔓延でパニックに陥ったアルジェリアを舞台に、医師リウーの奮闘を描いた作品。いまこ…
卵料理と本は、それはそれは深い仲で結ばれている。 まず絵本『ぐりとぐら』には、大きな卵をたっぷりと使ったホットケーキが出てくる。あのホットケーキを食べてみたいと思わなかった子どもはいないだろう。 夏目漱石は胃潰瘍で入院し…
大学裏のボロアパートには正体不明の怪人が住んでいて、私は彼のせいで学生生活を派手に棒に振るものだと思っていました。無意味な情熱と半端なリビドーを滾らせて、私は爽快で時間の無駄に過ぎない喜劇に身を投じるものだと思っていまし…
JR新宿駅東口を出て、とりあえず紀伊國屋書店の方へ向かう。そのまま本屋の前を左手に通り過ぎ、伊勢丹と明治通りがぶつかるところで、しばし信号待ち。右に見える世界堂の看板を通り過ぎたら、もう少しだ。ひたすら真っ直ぐ道を進み、…
皆さんの自宅には、本棚がいくつあるでしょうか。 僕の家には、合計で4つの本棚があり、これまでは問題がありませんでした。しかし実家に置きっぱなしにしていた本をこの度引き受けたことにより、本棚のスペースが足りなくなり……。 …
便利なネットなどもない昭和の時代に、古今東西の奇怪で異端な文化や歴史、思想、文学、芸術などなど、ジャンルを問わず壮大なスケールの知識量を有し、鋭く尖ったナイフのような独自の睨みで、斜めから、背後から、裏側から切り込むエッ…
普段は読み味さっぱりなラノベばかりを脳に直接注入している私ですが、たまには珍味を食べたくなることがあります。並の珍味では満足できません。朝からカツカレーうどんを流し込むような、アブラマシマシ重逆バトバト範サブオックス的な…
死にたいと思ったことを覚えてる? あの日のきみの声が届いた。 今日がただきのうに変わる。止まらない秒針がふと揺らめいたとき、 思い出が日付の向こうに駆けだして、忘れたはずの夢がぼやけた。 行かないで。置いてかないで、ここ…
ほんとうは気がついていた。少しずつ彼らが壊れてしまったことも、 やさしさを盾にしながら祈るとき、夢がねじれて苦しいことも。 ずるかった。あなたはいつでもずるかった。眉毛を下げてゆるく笑って、 なんだって許してあげるとそう…
秋は短い。あっという間だ。 秋という季節を、私は時折哀れむ。哀れんだところで、短命な彼女はすぐに死んでしまう。枯葉に横たわって、ついには見えなくなる。死が絶えず漂っている季節という認識があった。時間でいうとちょうど三ヶ月…
噴水がゆっくりゆっくり落ちていく。どうか忘れてくれますように。 あの人の赤いまつ毛が抜けるたび終わりの予感を淡くおぼえた。 叶わない夢なら濁ってほしかった。希望のかけらを全部つかって 叫んでも絶望ばかりあでやかに残る。神…
架空の都市に思いを馳せたことのない人類などいません! ヒトの想像力はいつだってあり得ざる都の姿にその翼を羽ばたかせてきました。古くはアトランティスにムー大陸、歴史的にはプレスター・ジョンの国。創作物としても『指輪物語』の…
欠点を愛してほしいと泣く人の涙をきれいと思えなかった。 ぼくたちは適度な他人だったのに、どうしてあのとき手を伸ばしたの。 慰めの言葉もやさしい眼差しも、持ってるふりをしていただけで 本当は大事なことがわからない。かなしい…
「私」が丸善の本棚に置いた檸檬は、辺りを木っ端みじんに粉砕する爆弾に変容した。 では、「わたし」はどうか? 誰かに存在を認知され、然るべき場所に置かれたらちゃんと〝変容〟できるのだろうか? その時を待ちわびては、日毎に檸…
天井の低い世界に寝転んで隣の人の匂いを嗅いだ。 ずたずたに傷つきたくてここにきた。いまさら言い訳なんてしないよ。 それなのに、底の底まで落ちたのに、必死に光を探してしまう。 (うしなった視力は濁ったままなのに。どうせ涙も…
道徳一切が裸足で逃げ出した外道の街で、悪党と悪党がバチバチやりあって死体の山を築くような! 尋常の生命を放棄した異質な思考で、人間であることを辞めた化物どもが笑いながら自ら炎に飛び込むような! 正気の沙汰こそ狂気に映る悪…
この世界に実体として存在している己の肉体について、ふと立ち返り考えたことはあるだろうか。 私たちの身体はひとつの個体として、漂う時間の中で常に定位置を保ちながら留まっている。 存在する実体、という面では不動だが、経過する…
偽物のように広がる青空が今でもたまにこわいんでしょう。 上書きの記憶ばかりが鮮明になっていくのを拒めないから、 僕たちは途切れ途切れの優しさが脆いと知っててすがってしまう。 できすぎた入道雲を追いかけて田んぼまみれの道を…
こんな夢を見た。 文豪・夏目漱石が、自身の見た夢を十編の小説にした作品、夢十夜。 エキセントリックな夢の世界と絶妙な不条理を、美しく、時に悍ましく描いている名作文学だ。 この作品について綴る前に、夢とは一体どういうものな…
皆さん、通勤してますか? 僕はしてます。ゴリゴリの徒歩通勤です。 昨年は電車で1時間くらいかけて職場に通っていたのですが、今は徒歩10分のところに部屋を借りて、すこぶる快適になりました。徒歩通勤最高。本当は、職場の近くで…
92年生まれの作家世代感 “世代感”ってある。 学校も違うし別に友達だったわけでもないのに、何かしらの共通の思い出があると一気に親近感が湧いてくるあの感じ。 ポケモンやデジモンを毎週欠かさず見てたり、64のスマブラでわい…
匂い立つような退廃、というものを感じたことはあるだろうか。 朽ちたもの、節の細いもの、人の手が行き届かないもの、脆く触れられないもの。 この世界には沢山の〝退廃〟が存在する。見る者に生命の終わり頃に漂う独特の匂いを想像さ…
絞り出すようにあなたが呟いた最後の言葉は聞こえなかった。 聞き返すことができずに頷いて、終わりの影は傾いてくる。 小さくて冷たい爪を撫でていた。ずっとやさしい、白い深爪。 沈黙に紛れて進む秒針がやけに大きく時間を刻む。 …
可哀想な女の子は好きですか? 無力感に苛まれる男は好きですか? モノとして消耗する人間兵器とか、好きでしょう? そして、ハッピーエンドはどうでしょう。 それ、ぜんぶあります。 健気に命を賭ける女の子が、悲惨な死を迎えるの…
はじめましての人は、はじめまして。神楽坂愛里botの中の人です! 『神楽坂愛里の実験ノート』シリーズが好きすぎて、作者さんに内緒で、Twitterを使ったヒロイン・神楽坂愛里のbot活動を始めていたところ、なぜか作者さん…